皮膚科のにきび治療

ひろせ皮フ科クリニック 広瀬るみ 院長
札幌市東区北42条東16丁目1-1 N42メディカルビル 4F TEL. 011-789-2888

 にきびは主に思春期に顔面に出現する炎症性皮疹(赤にきび)または面皰(白にきび)があり、時には本人の悩みの種となり、生活の質が低下してしまいます。重症化すると瘢痕(はんこん:できものや傷がなどが治った後に皮膚面に残るあと)を残す場合もあり、急性期の治療が重要です。

座瘡(ざそう)とは

 尋常性座瘡(じんじょうせいざそう=にきび)は、毛包脂腺系の慢性疾患で男性ホルモンの作用による皮脂の分泌亢進(ぶんぴつこうしん)、毛漏斗部(もうろうとぶ)の角化亢進(かくかこうしん)により、皮脂が毛嚢(もうのう)内に貯留した状態から始まります。
 面皰の初期の症状を微小面皰(びしょうめんぽう)と呼びます。面皰内は皮脂が豊富で嫌気の環境であるため、アクネ菌(Propionibacterium acnes)が増菌しやすく炎症を生じて紅色丘疹(こうしょくきゅうしん)、膿疱(のうほう)になります。炎症性皮疹は微小面皰か面皰から生じます。さらに炎症が拡大するとのう腫や硬結となり、治癒後に瘢痕を残します。
 座瘡の皮脂の分泌のメカニズムは、男性ホルモンのひとつであるジヒドロテストステロンの作用によります。炎症のメカニズムとしては、アクネ菌が産生するリパーゼにより皮脂が分解されて遊離脂肪酸となることやアクネ菌が好中球(白血球の一種)の遊走を促し、好中球が活性酸素を放出することもあります。

座瘡の診断

 毛包一致性の皮疹で初期は面皰のみですが炎症を生じると面皰、紅色丘疹、膿疱、のう腫、硬結、紅斑、陥凹性(かんおうせい)瘢痕、ケロイドなどが混在しており、臨床症状により診断します。

座瘡の治療

 2015年に過酸化ベンゾイル(BPO)、クリンダマイシンと過酸化ベンゾイルの配合剤(CLD/BPO)が、2017年にアダパレン/BPO配合剤が発売になり、日本のにきび治療は欧米を中心とする世界標準のレベルと肩を並べました。これに応じて日本皮膚科学会策定治療ガイドライン2016、2017が作成されました。
 今回は2017版に準じて治療を紹介します。
 まず治療期は急性炎症期(発症から3か月まで)と維持期に分かれます。
【Ⅰ】急性炎症期
①主な皮疹が面皰の場合はアダパレンまたは過酸化ベンゾイル(BPO)またはアダパレン/BPO配合ゲルが推奨されています。
②炎症性皮疹の場合、重症度に応じて薬剤が異なります。
 軽症の場合はアダパレンまたはBPOまたはBPOと外用抗菌薬の併用などの外用療法が中心です。中等症の場合は各種外用薬(アダパレン、アダパレン/BPO、CLD/BPO)に内服抗菌薬が加わります。あるいは内服抗菌薬の単独使用となります。中等症~最重症の場合は、内服抗菌薬が中心です。
【Ⅱ】維持期
アダパレン、BPO、または両者の配合剤が奨められます。薬剤耐性菌対策として抗菌薬は含まれません。
個別の治療法を紹介します。
●アダパレン(商品名:ディフェリン)
 毛漏斗部の角化異常を改善するため、面皰に対して有効なレチノイドの一つ。日本では2008年に認可されて使用可能となりました。白ニキビ(面皰)を治療するだけでなく、予防する作用もあります。就寝前、洗顔後に顔面全体に1回当たり1FU(finger tip=2.5㎝)を付けます。
●過酸化ベンゾイル
 BPO製剤としてBPO(商品名:ベピオゲル)、CLDM/BPO(商品名:デュアック)、アダパレン/BPO(商品名:エピデュオ)があります。
 BPOの特長は角質を剥離して毛穴のつまりを除きながら殺菌作用も併せ持つことです。強い酸化作用をもち、容易に分解してフリーラジカルを生じて、アクネ菌に殺菌的に作用します。クリンダマイシン外用剤に比べてアクネ菌に対する耐性菌が出現しにくいので、長期にわたって効果が持続します。副作用は刺激症状が主で、アダパレン/BPO、アダパレンで副作用の頻度が高いのですが、洗顔後、保湿剤を塗布してから、外用剤を塗布すると刺激症状は軽減されます。保湿剤は医薬品ではなく、低刺激性化粧品(化粧水、ジェル、乳液、クリーム)でも代替できます。
●抗菌薬
 座瘡治療ガイドライン(2017)ではドキシサイクリン、ミノマイシンの順で強く推奨されています。ロキシスロマイシンやファロペネムも推奨されていますが、やや評価は下がります。選択枝の一つとして、レボフロキサシン、トスフルキサシン、セファロキシムなどがあります。
●漢方薬、ステロイドの局所注射
 患者さんの体質や生活習慣病などの生活背景も考慮しながら、漢方薬の選択もあります。ステロイドの局所注射はのう腫や肥厚性瘢痕に対して推奨されており、肥厚性瘢痕には、抗アレルギー剤(リザベンの内服)や漢方薬の柴苓湯(さいれいとう)も効果的です。

皮膚科の漢方療法

 当院の漢方療法についてご紹介します。
 当院で漢方薬が最も頻用されるのは座瘡治療です。座瘡治療の漢方薬には以下のようなものがあります。
1 十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう):ニキビの炎症反応が比較的弱い初期の「白ニキビ」と維持期の両方の時期に使用します。清熱(冷やす)、止痒、排膿、補気(胃腸機能改善)の作用を有する生薬から成り、湿疹、皮膚炎に有効な場合もあります。
2 清上防風湯(せいじょうぼうふうとう):清熱、去風(かゆみ、痛み止め)、排膿の作用を有する生薬から成ります。強い清熱作用を有するため、若い方の赤いにきびに有効です。
3 荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう):面皰や炎症性皮疹に有効な場合があり、慢性化した重症の症例(赤紫色の炎症や硬結)にも使用されます。
4 桂枝茯苓丸加(けいしぶくりょうがんか)ヨクイニン:月経周期に伴って増悪する方や月経痛、月経不順の訴えがある方に適応です。血流改善効果があり、座瘡の改善とともに月経不順の改善も期待されます。
5 加味逍遥散(かみしょうようさん):経験上、女性の顎部の赤いニキビに有効です。
6 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):冷え性が強い方で、赤みに乏しい顔面のニキビに有効です。冷え性の改善や懐妊効果も期待できます。

円形脱毛症・いぼ・帯状疱疹の漢方療法

 円形脱毛症の漢方療法には、以下のようなものがあります。
1 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):免疫賦活作用、抗うつ作用を有します。全身状態は比較的良好でも、気力が低下し、疲労倦怠感や食欲不振のある場合によい漢方薬です。
2 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう):高度の疲労倦怠感や食欲不振がある場合によい漢方薬です。
3 加味逍遙散(かみしょうようさん):抗不安作用、更年期女性の精神症状改善作用が報告されています。月経前に増悪する肩こり、イライラや精神不安、のぼせを認め、多愁訴で訴えが変わりやすい人に適応されます。
 尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい:いぼ)と伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ:水いぼ)では、ヨクイニンエキスの内服があります。ヨクイニンはハトムギの種皮を除いた成熟種子を乾燥した生薬で保険適応です。ヨクイニン内服の有効率は、年齢別に乳幼児71%、児童74%、青年54%、成人20%という報告があり、若年での有効率が高く、成人では低くなっていますが、伝染性軟属腫にも有効性が認められ、有効以上は54%で副作用なしの報告があります。
 帯状疱疹は高齢者に多いウイルス性の皮膚病ですが、皮疹消失後も神経痛が長く続くことがあります。桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)は急性期の痛みに対して鎮痛効果を発揮し、皮疹消失後にも継続する帯状疱疹後神経痛の予防にもなるので頻用しています。

◆寄稿:ひろせ皮フ科クリニック 広瀬るみ院長
「メディカルページ札幌2019夏号」(令和元年7月12日発行)の冊子に掲載された記事です。


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