ドクターに聞く「老視(老眼)について」

新川中央眼科
小川 佳一 院長
札幌市北区新川3条7丁目1-64 TEL 011-769-1010

前回の「近視」に続き、今回は「老視(老眼)」について原因から治療法まで、新川中央眼科 小川佳一院長に語っていただきました。
<取材協力>
小川 佳一 氏
(新川中央眼科 院長)
「メディカルページ平成24年度版」(平成24年8月20日発行)の冊子に掲載された記事です。 

老視(老眼)は遠視と違うの?

老視(老眼)は、「近くが見えない」と思っている方が多いです。また、老視と遠視が同じものと思っている方も多いと思います。
老眼鏡も遠視の眼鏡も+の度数(凸レンズ)の眼鏡を使用しますが、全く別の状態です。
老視は人間であれば避けて通る事が出来ない老化現象、視力障害の1つです。

なぜ老視になるのですか?

眼はカメラと同じ仕組みをしています。カメラのレンズにあたる水晶体は水晶体嚢(のう)という袋の中にゼリー状の物質が入っています。
水晶体嚢は毛様体(もうようたい)という筋肉(毛様体筋)に引っ張られて厚みが変わり、ピントを調節します。
例えば近くを見る場合は水晶体を厚くしてピントを合わせ、遠くを見るときは逆に水晶体を薄くしてピントを合わせるのです。
年齢とともにこの水晶体が固くなったり、毛様体自体の筋力が衰えたりすることでピントが動かせなくなってきます。また、ピントを調節する速さも遅くなってきます。老視は「近くが見えない」のではなくピントが合う範囲自体が狭くなっているので、調節が必要となる範囲全体が見づらくなっているのです。
ヒトの眼の目的は遠くを見ることが基本ですから、近くが最も早く見えにくくなってきます。このピントの調節能力の低下は子供のうちから始まっています。ピント合わせの幅は20歳の時点で3歳児に比べ半分まで落ちているといわれています。この調節能力の低下に気が付いた時を「老眼」の始まりとしているのです。早い方であれば30代後半くらいからピントが合いにくいという症状を自覚するようになります。
例えば、近くを見ていて、急に遠くを見たときなど視点を大きく動かした時に一瞬ぼんやりとして見えにくくなります。また、近くを見るときに毛様体筋が頑張っているわけですから、近方作業を続けているとこの筋肉が疲労し筋肉痛を起こすようになります。これが眼精疲労です。

近用眼鏡について

老視を自覚してきたら老眼鏡を使用することになります。
一般的には老眼鏡と言いますが、僕はこの老眼鏡という言葉が嫌いです。老眼鏡は正確には近用鏡と言います。英語ではreading glassesです。訳すと読書用眼鏡ですね。近用鏡や、読書用眼鏡の方が抵抗なく使えそうな気がしませんか?
もともと眼鏡は距離で合わせます。一般的に使用している眼鏡は遠用鏡と呼び、遠くにピントが合うようにします。遠用鏡は5mに合わせるのが基本です。近用眼鏡の場合、読書用と考えると30cmに合わせるのが基本ですが、かける方の使い方に合わせて度数を変える必要があります。手元30cm用と50cm用では度数が異なるのです。
今までにも、床の上に新聞を置いて胡坐をかいて読むという方に実際にその姿勢を取っていただいて眼鏡合わせをしたことがあります。眼鏡合わせの際には実施の使い方をできるだけイメージして、しっかりと伝えていただく事が大事になります。
遠近両用眼鏡は便利なようですが、遠くも近くも見えるメガネではありません。眼鏡の中心に遠用の度数で、その下方に近用度数が張り付けてあるのが遠近両用です。今は境目がわからないものや段階的に変化する累進度数があり、あまり意識しないようになっていますが、近用度数を使用するためにはかなり下目使いをしなくてはなりません。買い物に行ってちょっと値段を確認したい様な場面では便利ですが、意外に疲れる位置になりますから、長い間近くを見ることには向いていません。
長時間近くを見るときには近用単焦点の眼鏡を使う必要があります。遠近両用眼鏡を使用しているが、近用部分をうまく使えていないという方は多いです。また、眼鏡の位置(フィッティング)もきちんとあっていないと使いこなすことができなくなります。最近ではコンピュータなどを使用することも多くなっていますので、キーボードや原稿用に手元30cm、画面で50cmという近-近用眼鏡を使う手もあります。僕は診察時には電子カルテを見るため、周辺部にごくわずかな近用度数が入ったREMARK(HOYA)という特殊なレンズを使用しています。

老眼の治療について

toku08b老視の治療としては、モノビジョンレーシック、 老視矯正レーシック、Conductive Keratoplasty(CK)、アキュフォーカスリングといった方法があります。
ただ、水晶体を若返らせて調節力を元に戻すわけではありません。近用鏡を眼の中にいかに組み込むか、という考え方です。現在いずれも保険診療では認められていません。
モノビジョンレーシックとは、近視、遠視、乱視のほかに老視(老眼)の症状がある方がレーシック手術後、片方の目で遠くを、もう片方の目で近くを見るような状態にすることです。立体的に物を見る力が落ちることや、結局片目で物を見ていることになるので目が疲れやすくなる方もいます。
老眼レーシックはレーシックの際に、一部近方にピントの合う部分を作る方法です。遠近両用コンタクトレンズが角膜に掘り込まれてイメージです。モノビジョンより疲れにくく、立体視機能も良いのですが、コントラスト視力が低下するため夜間の運転を多くするような方にはおすすめできません。
CKは、角膜周辺部に高周波を照射し、角膜を変形させ、老眼レーシックと同じような効果を出す方法です。
最近テレビで取り上げられて有名になったのがアキュフォーカスリングです。カーボンブラック(炭)を入れて黒く染色した直径の3.8mmのリングを角膜に埋め込み、ピンホール効果によって焦点深度が深くなるので、近くが見やすくなります。瞳孔の前に黒いリングを入れるため、暗いところでの見え方が低下したり、将来的に網膜(フィルムに相当する部分)の病気になった場合の眼底検査が困難になる、白内障手術が難しくなる等の可能性があります。
また、白内障手術の際に多焦点眼内レンズを使用する方法もあります。将来的に白内障手術をするのであれば初期の白内障のうちに屈折矯正手術を兼ねて積極的に行う、clear lensectomyやrefractive cataract surgeryという考え方です。


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