実は隠れてる!? 風邪と間違いやすいノドや鼻の病気

桂林耳鼻咽喉科・中耳サージクリニック桝谷将偉 院長
札幌市厚別区厚別中央2条5丁目6番3号 デュオ2 4階 TEL.011-801-4133

この季節、風邪かなと思った症状が、実は耳鼻咽喉科での診察・治療が必要な病気の時もある。桂林耳鼻咽喉科・中耳サージクリニックの桝谷将偉院長に解説してもらった。


「メディカルページ札幌2018冬号」(平成30年12月7日発行)の冊子に掲載された記事です。

気温と湿度が低下してくると、いわゆる“風邪”をひきやすくなる事を何度も経験されているかと思います。これからの時期には、湿度が低下することからウイルスが浮遊しやすくなり(わかりやすくいうとウイルスの行動範囲が広がる)、また人間側の原因として、粘膜の乾燥が引き起こされるためウイルスが体内に侵入しやすく、また、体温の低下から免疫力の低下を引き起こす事も一因と考えられています。症状は、鼻みず、鼻づまり、咳、のどの痛み、体の節々が痛い、だるい、食欲が無いなど多岐にわたります。

一昔前は、“風邪を引けば病院に行って抗生剤や総合感冒薬(PL顆粒)などの薬をもらう”というのが一般的でしたが、最近はこの考えが変わってきており、不要な抗生剤は飲まず、症状を緩和する対症療法薬と十分な休養による治療をメインとして行うことが推奨されています。

もともと抗生剤というのは、あくまで“細菌”をやっつけるためのものであり、“ウイルス”をやっつけるためのものではないからです。ちなみに、「風邪」というのは、ウイルス感染によるものです(もちろん、そこに細菌感染が加わってくることもあるので、必要に応じて抗生剤を投与することもあります)。例えば、よく聞くインフルエンザウイルスなんかもそうですよね。

ちなみに、あまり知られていませんが、インフルエンザのワクチン接種やインフルエンザの検査・治療を耳鼻咽喉科でも行なっています。中には、インフルエンザから中耳炎や副鼻腔炎(俗に言う蓄膿症)を併発するケースもあるため、むしろ耳鼻咽喉科の医師がインフルエンザ治療を得意とする場合もあります。

さて、気をつけなければいけないのが、実は風邪症状や、風邪が長引いているだけと思っている症状の中には“重大な病気”が潜んでいる可能性があるという事です。特に、長引くそれらの症状には要注意であり、適切な治療が受けられるよう自分の体を知ることが大事です。また、それらの原因として、実は耳鼻咽喉科医の方が得意としている病気が原因となっている可能性があるので、どのようなケースで耳鼻科を受診すれば良いのかなどを例に例えてご紹介したいと思います。

【ケース1】36才男性。1週間前にのどの痛みを自覚したが、風邪と思い市販薬で様子をみていた。やや症状が改善したと思っていたら、2日前より喉の痛みが悪化。食事も取れない状態。【病名:急性扁桃炎】

ノドには扁桃とよばれるリンパ組織が存在しています。幼少期には細菌などが直接体内に取り込まれないように、無害化してから体に取り込みます。本来であれば体の免疫力がついてくると、扁桃の機能は低下し徐々に小さくなってきます。ですが、大人になっても大きなまま扁桃が残ってしまう方がいます。

写真A急性咽頭蓋炎

そうなりますと、細菌にとっては高級ベッドと同じであり、非常に居心地がよいため増殖し、感染症を引き起こします。これが急性扁桃炎です。

この炎症がひどくなると扁桃のわくを超えて周囲にまで炎症が波及したり(扁桃周囲膿瘍)、ノドの下の方にまで炎症が広がり、空気の通り道の部分にまで炎症が及んでしまいます(急性喉頭蓋炎:写真A)。これらは非常に危険で、窒息死などの危険もあるため、早急に治療が必要です。

【ケース2】70代男性。1ヶ月前から喉に違和感を感じ、咳も出だした。様子をみていたところ声もかれてきた。タバコ、お酒が大好き。【病名:下咽頭癌】

ノドは医学的には「喉頭」と「咽頭」に分けられます。わかりやすく言うと、空気の通り道に関するところが「喉頭」であり、食べ物の通り道に関するところが「咽頭」です。飲酒やタバコ、塩分が濃いもの、辛いもの、熱いものなどにより慢性的に刺激を受けると粘膜に障害が生じます。

「喉頭癌の例」

本来であれば障害を受けても修復する機転が存在していますが、ある時エラーが生じてガン細胞が発生します。症状としては、声がかれる、長引く咳、喉の異物感・違和感(つまった感じ、何かある感じなど)、飲み込みにくいなどを起こします。

また、首のリンパ節に転移を生じますので、首にしこりがあることに先に気づくケースもあります。早期であればあるほど治療の選択肢が増え、完治させる確率も上がるため早急に耳鼻科医の診察を受けることをお勧めします。

【ケース3】40代女性。1週間前から鼻水、鼻づまりが始まり対処していた。2日前から色のついた鼻水、咳、頭が重い感じ、左頬が痛くなってきた。【病名:急性副鼻腔炎】

副鼻腔炎とは俗にいう蓄膿症の事です。簡単に言いますと、副鼻腔に炎症があり、汚い鼻汁、鼻の奥に流れる感じ、鼻づまりなどの症状が“長く続いている”を慢性副鼻腔炎といい、急激に痛みなどが生じてくるものを急性副鼻腔炎と呼びます。

そもそも副鼻腔とは何か?と言う事ですが、実は顔を構成している骨にはいくつか空洞が存在しており、これが鼻の中の空間とつながりを持っています。両頬、目と目の間、おでこ、脳に近い深い部分です。これらの空間を副鼻腔と呼んでいます。鼻の中の環境が悪くなると、この副鼻腔にも炎症が及び、上記のような症状を来すのです。

気をつけなければならないのが、片側の副鼻腔にだけ炎症が起こるケースです。これには歯(特に上の歯)の根元の炎症が原因となっている場合、カビ(真菌)が悪さをしている場合、腫瘍や癌が隠れている場合などがあるため注意が必要となります。

そんな所にも癌ができるの?とよく質問を受けますが、癌はあらゆる場所にほぼできます。例えば耳掃除をしすぎて炎症を頻繁に起こしますと、耳の中にも癌(外耳道癌)ができます。そのような危険もあるため、上記の様な症状がある場合、やはり様子を見る事はせずに耳鼻咽喉科医師の診察を受けることをお勧めします。

いかがでしたでしょうか?少しでも皆様の健康のお役に立てれば幸いです。耳鼻咽喉科医師はそれぞれ得意とする分野がございますので(例えば、当院では副院長の瀧 重成 医師が、“はな・のど・甲状腺”の治療を担当しております)、気になることがあれば、まずは一度お近くの耳鼻科医師に相談してみてください。

◆寄稿: 桂林耳鼻咽喉科・中耳サージクリニック 院長 桝谷 将偉氏


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