視力ってなに?
新川中央眼科 小川 佳一 院長
札幌市北区新川3条7丁目1-64 TEL 011-769-1010
ものがよく見える。あるいは見えない。その程度をあらわすのが視力と思っていらっしゃいませんか。「視力」はものを見る能力の尺度のひとつで、「視力」の数字だけでは物を見る能力を判定できないのです。新川中央眼科の小川佳一院長に「視力」について解説していただきました。 |
「私、0.3の近視なの…」。「視力は0.4なんだ、じゃあ私と同じくらいだね…」。よく聞く会話です。
ところで、視力って何でしょうか?
当たり前のように使っている言葉ですが、視力とは何かを知っている人はほとんどいないと思います。
今回はそんな視力の話です。ちょっと数学のお話になりますがあまり難しく考えないでください。
視力と見る能力との差
人には視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚という五感があります。
例えば聴覚の場合、「耳が良い」というと小さい音まで聞き取る能力や、騒音の中で目的の音(声)を聴き分ける能力、絶対音感のように音の高さ(周波数)を正確に聞き分ける能力などなど。
同じ聴く能力にもその評価内容はいろいろありますね。
視覚ではどうでしょうか?
「どれくらい見えるか/どれくらい見えにくいか」を比較・判断するためには、比較・判断用の尺度(ものさし)が必要です。その尺度には多くの種類があります。
一般にものを見る能力は「視力」が使われています。これは2点弁別能(最小分離閾)という能力で、どのくらいまで近接したものが離れている(接していない)と判断できるかを表している尺度です。2点または2線と目をそれぞれ結んだ線の成す角度(視角:図1)の逆数で表されます。視角が小さいほどより細かいところまで見えることになります。
視力をY、もの見る能力の程度(視角θ)をXとするとY=1/Xという式で表されます。
欧米では分数視力といって、『20/20』『6/6』のように分数で表します。日本では、『0.7』『1.0』といった小数表記の小数視力で表現しますが基本的には同じものです。
1/0という数字は存在しませんから、視力が0という表現はありません。
視力と視覚
本中学1年で習うY=1/Xのグラフを見てみましょう。
皆さんの数字のイメージはY=aXの正比例のグラフですよね。
だから視力(Y)ともの見る能力(X)は同等に増加すると思ってしまいます。
しかし、視力のグラフは反比例のグラフ(図2)です。イメージがつきましたか?
では、具体的に見ていきましょう。
視力1.0では視角は1分(分は1度の60分の1)です。視力1.2では視角は0.83分になります。その差は0.17分。
視力0.1では視角は10分で、同じように0.2だけ良い視力0.3では3.33分。その差は6.67分です。
視力では同じ0.2の差でも視角の差は大きく違いますね。つまり視力1.0→1.2と視力0.1→0.3の差は同等に評価することはできないのです。
単純に視力の値だけで比較することは難しく、我々眼科医が研究をするときにはこれを直線に評価できるLogMAR視力という特殊な視力表記を使うことになります。
この他に最小視認閾(1点が見えるかどうか)、最小可読閾(文字が判別できるかどうか)、副尺視力(2直線の長さの違いを認識できるか)という尺度もありますし、対比視力(コントラスト視力)、立体視などのいろいろな点からものを見る能力を評価する必要があります。
視力はどこまで信じられる?
ところでここまで視力の数値についてみてきましたが、では視力ってどこまで信じられる数字なのでしょうか?
実際、人の感覚は体調や集中力によっても変化します。
同じ五感で考えてみると、味覚の場合体調や環境によって感じ方が変わることは経験があると思います。視覚も同様で計るたびに変動があります。
味覚なら濃度を変えた砂糖水を並べて、舐めてゆき甘みが感じられたものの濃度をその人の「味力」と表現しているようなものです。これだと大きく変動することは理解できますよね。
視力が一定の値ではないことは理解していただけたでしょうか?
ですから、視力の数値だけを見て評価するのは正確ではないんです。
とりあえず、視力の数字というのは「どれくらい見えにくいか?」なんとなくのイメージをつかむくらいで思っていてください。
◆寄稿:新川中央眼科 院長 小川佳一氏
新川中央眼科
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