あなたの湿疹は大丈夫ですか?ヒゼンダニが寄生する「疥癬(かいせん)」かも。

ひろせ皮フ科クリニック
広瀬 るみ 院長
札幌市東区北42条東16丁目1-1 N42メディカルビル3階
TEL 011-789-2888

かゆみを伴う湿疹。もしかしたらそのかゆみ、家族にも感染していませんか。今回は、小さなダニが皮膚に寄生する皮膚感染症「疥癬(かいせん)」について、ひろせ皮フ科クリニックの広瀬るみ院長に語っていただきました。
<取材協力>
広瀬 るみ 氏
(ひろせ皮フ科クリニック 院長)
「メディカルページ平成25年度改訂版」 (平成25年12月19日発行)の冊子に掲載された記事です。

疥癬(かいせん)とは?

toku15b疥癬とは、ヒゼンダニ(疥癬虫)というたいへん小さなダニが人の皮膚の表面に寄生しておこる、かゆみの激しい皮膚病で、人から人へ感染します。
ヒゼンダニは体長0.4mmの小さなダニで直接見ることはできません。卵から幼虫、若虫をへて成虫(オス、メス)となります。メスの成虫はオスの成虫と交尾後、手首や手のひら、指の間、肘、脇の下、足首や足の裏、外陰部などに疥癬トンネルと呼ばれる横穴を掘り、1日に2~3個卵をトンネル内に産みつけます。卵は3~4日でかえり、そのライフサイクルは10~14日です。ヒゼンダニは人の体温がいちばん生活に適しており、人の肌から離れた場合は長く生きられません。また、高熱や乾燥に弱く、50℃以上の環境に10分以上さらされると死ぬことがわかっています。
この病気には、通常疥癬と呼ばれるものと他の人への感染力が極めて強い角化型疥癬(ノルウェー疥癬)と呼ばれる2つの病型があります。
両方とも病因のヒゼンダニは同じですが、免疫力の差により、寄生するダニの数は極端に異なり、それに伴い症状も異なります。

通常疥癬と角化型疥癬

通常疥癬は、感染後約1~2ヵ月の無症状の潜伏期間を経て発症し、顔や頭を除いた全身に強いかゆみの症状がでます。特に夜間にそのかゆみは増強します。
通常疥癬は、かなり悪化しても1人に寄生するダニの数は千匹程度ですが、角化型疥癬では、1人に100万~200万匹、時には500万匹を超し、感染力は極めて強いのが特徴です。

感染経路は?

通常疥癬は、長い時間、肌と肌が直接ふれることで感染します。長時間寝起きをともにしたり、雑魚寝、長時間の握手などでも感染します。ただすこしふれる程度であれば感染することはほとんどありません。間接的には、布団など寝具や衣類などから感染します。仮眠室、合宿、当直室の共同使用者間で集団発生例があります。
角化型疥癬は、感染する力が強いので、病院内や高齢者施設内などで抱きかかえるなど看護、介護の場で感染します。また、皮膚からはがれ落ちたあか(角質)にも多数のダニが含まれており、これが周囲に飛び散ったり、衣類に付いて運ばれたりして広範囲に感染することがあります。

診断がたいへん難しい病気

疥癬の原因であるヒゼンダニはとても小さく、肉眼では見つけにくいため、誤診されやすく、皮膚科医でも視診だけの診断は困難です。一般的な湿疹としてステロイド剤での治療を行ってしまうと症状が更に悪化してしまいます。私は、疥癬に集団感染した複数の老人施設での治療経験と、自分自身もそこで感染した経験から、たくさんの症例を見てきました。一度、集団感染すると完全に治癒するまで一年はかかります。
当院でも、毎月新患で5~6人は疥癬で受診しています。特に院内感染や老人施設で感染した患者さんが目立ちます。

治療法は?

治療には、塗り薬と飲み薬を使用しています。
塗り薬としては、有機硫黄剤で刺激性が少ないチアントール軟膏と10%クロタミトンを使用しています。また、チアントール軟膏よりも刺激性が強い安息香酸ベンジルを使用する場合もあります。
通常疥癬では、塗り残しがないように首から下の全身に塗ります。特に手や足、外陰部にはヒゼンダニが卵を産む場所なので入念に塗ってください。塗り残しがあるとヒゼンダニが生き残ります。1日2回塗り、4~6週間行います。飲み薬のイベルメクチンを併用した治療も行っていますが、イベルメクチン単独では70~80%の治癒率なので、塗り薬の併用が必要となる場合があります。塗り薬を使用する場合、治癒までは1ヵ月半くらいから長期にわたる場合があります。

注意することは?

自分がうつした、または自分にうつした可能性がある人、例えば家族や同居者、介護や看護をしている人などは、治療の必要がありますので、まずは皮膚科医に相談してください。
ヒゼンダニは人から離れると死んでしまいますので、通常疥癬では室内への殺虫剤散布の必要はありませんが、肌に触る下着やシーツは熱湯消毒が必要です。70℃~80℃位の熱湯をかけてから普通に洗濯をします。
ご家族が通常疥癬と診断された時は、肌と肌が直接ふれないように気をつけること、同室で布団を並べて寝ない、入浴時にタオルなど肌に直接ふれるものを一緒に使用しない、患者さんに接したあとはきちんと手を洗うようにしてください。
◆寄稿:ひろせ皮フ科クリニック 院長 広瀬 るみ氏


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