眼科治療の最前線 角膜移植と再生医療について

新川中央眼科 
小川 佳一 院長
札幌市北区新川3条7丁目1-64 TEL 011-769-1010

最近、網膜に対するiPS細胞を使った再生医療の話題が報道されていますが、角膜移植の研究も進んでいます。今回は角膜移植と再生医療について新川中央眼科 小川佳一院長に語っていただきました。
<取材協力>
小川 佳一 氏
(新川中央眼科 院長)
「メディカルページ平成27年度版」(平成27年7月25日発行)の冊子に掲載された記事です。

角膜移植とは

 

■小川佳一院長
■小川佳一院長

眼球表面の中央部、直径約12 mmの透明な部分(黒目)が角膜と呼ばれる組織です。角膜に混濁が生じると外の光が眼球内の網膜までとどかなくなり、視力は低下します。角膜の混濁がある場合には角膜移植でしか視力を回復することができません。
角膜移植は,医学の世界で最も古くから行われ,最も普及している移植手術であり,日本では年間約3000例の角膜移植手術が行われています。
日本における角膜移植の適応で、頻度の高い角膜疾患は、①円錐角膜、②角膜炎後の角膜混濁、③角膜変性症、④水疱性角膜症、などです。

角膜移植の種類

角膜は眼の表面から内側まで、大きく分けて“上皮”、“実質”、“内皮”の3つの層からなります。この3層全てを移植するのが全層角膜移植術(PKP)です。PKPは古くから行われている標準の術式で、角膜の中央部分を直径約7-8㎜でくり抜くようにして交換する手術であり,角膜移植の基本となる手術です。
角膜の混濁が表層にのみある場合には、表層角膜移植(LKP)を行います。手術後に拒絶反応がおこる危険性が少なく、安全性が高いですが、角膜の濁りが残ってしまうことがあり、視力改善はPKPよりやや劣るのが欠点です。

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※掲載資料はいずれも小川院長提供

角膜内皮の障害に対しては最新の角膜内皮移植(DSAEK)を行います。提供されたドナー角膜の内皮細胞と実質の一部を移植する方法です。移植するドナー角膜は、眼の中に空気を入れてその浮力で接着させます。移植するドナー角膜を糸で縫わないことがこの術式の大きな特徴であり、移植術後の乱視などが軽減され、視力改善が良好であるというメリットがあります。
最近は全層角膜移植でもドナー片を作るときにフェムトセカンドレーザー(LASIKにも使われているレーザーです)を用いることで、角膜を糸で縫わなくても良い方法が研究されています。
従来からアイバンクによる献眼からの角膜移植が行われていました。しかしながら、日本国内では慢性的なドナー不足により、多くの患者さんが角膜移植を心待ちにしているのが現状です。最近ではアメリカから輸入して使用することもあります。また他人の角膜を移植する場合には拒絶反応を生ずる可能性があります。

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■角膜移植前(左) 移植後(右)

さらに、角膜上皮の幹細胞が障害されて生じるStevens-Johnson(スティーブンス・ジョンソン)症候群、眼類天疱瘡(がんるいてんぽうそう)、熱化学外傷では、角膜が濁るだけでなく、まぶたの癒着やドライアイを伴い、ドナー角膜による角膜移植では治すことが不可能でした。このため、これらの疾患は難治性角結膜疾患として、長年にわたり治療不可能とされてきました。

角膜再生医療

■自家培養上皮シート

■自家培養上皮シート

角膜再生医療は、難治性角結膜疾患に対する新しい治療や不足しているドナー眼を解決するために研究、開発されてきました。最先端の培養技術、組織工学技術で再生させることを目指した、新しい治療法です。
患者本人の口腔粘膜細胞から上皮シートを製造し、それを移植することで、組織の再生を促し視機能を維持・回復させるという新しい治療法が培養自家口腔粘膜上皮シート移植術です。口腔粘膜細胞から上皮細胞を分離し、分離した細胞を約2週間培養します。完成したこのシートを痛んだ角膜に張り付けることによって状態を改善します。
現在は大阪大学未来医療センターでシートの製造を行い、東北大学・東大・大阪大学・愛媛大学で臨床試験を実施しています。
さらに、iPS細胞による移植組織の作成として上皮細胞シートの研究が、色素上皮の移植と同じくらい進んでおり、移植技術がまだ確立されていない網膜色素上皮移植よりも早く実用化されると言われています。
また、角膜内皮細胞が減っていき、角膜が混濁してくる病気は白内障や緑内障手術など、眼の手術の後に発症するもの、遺伝性のフックス角膜内皮変性症などがあり、角膜移植を受ける患者の半分以上を占めます。
角膜内皮は、上皮のように細胞分裂で増殖することがないので培養シートを作成することができませんでした。このため、角膜内皮移植(DSAEK)か全層角膜移植しか方法はありません。
toku22fiPS細胞による内皮細胞の再生技術が確立されると、多くの患者さんにとって朗報となります。
さらに現在までの技術では上皮なら上皮、内皮なら内皮だけのシートを作ることしかできませんでした。しかし、iPS細胞であれば各組織の複合した移植片の作成も作ることができるとされています。
その中でも血管や筋肉、神経が入り組んでいる心臓や肝臓などの他の器官とは違い角膜は単純な層構造ですから、上皮―実質―内皮のセットでの作成も早いと思われます。
そういった点でもiPS細胞の恩恵を受ける再生医療が最も早く実現するのは角膜と期待されています。

◆寄稿:新川中央眼科 院長 小川佳一氏


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