鼻アレルギーの抗原除去と舌下免疫療法について
なりた耳鼻咽喉科アレルギー科クリニック 院長 成田愼一郎
鼻アレルギーの患者さんは増加しており、耳鼻咽喉科医とその家族の鼻アレルギー有病率は1998、2008および2019年の調査ではそれぞれ29.8、39.4および49.2%となっています。また、アレルギーの原因となる抗原(アレルゲン)は2002から2011年のMinamiらの血清特異的IgE陽性割合の報告によると、ダニは45~50%、カビのカンジダは11-12%および草木花粉(カモガヤは20-30%、ヨモギは12-18%)は地域差は少ないのですが、樹木花粉であるスギは本州が42-65%であるのに対し北海道は11%と地域差が大きいです。
特に北海道で飛散数が多いシラカバはアレルゲンとして重要です。札幌市南区に位置する当院では平均年間650名程度血清IgEを測定してますが、ここ10年ほどでの変化も見られます。当院の特異的IgE陽性割合は2012から2014年の平均ではダニ(41%)、シラカバ(36%)、カモガヤ(17%)、ヨモギ(11%)、カンジダ(3%)、イヌ(7%)およびネコ(4%)でしたが、直近2020から2022年の平均ではそれぞれ59、47、25、19、12、10および8%と増加し、特にダニ、シラカバは10%以上増加してます。さらにここ4年間は蛾も測定を始めましたが、19.5%とかなり陽性割合が高いです。今年は札幌市西区で蛾の大発生もあり、注意すべきかと思われます。
鼻アレルギーの治療ガイドラインでは重症度に関わらず、①抗原除去、回避および②アレルゲン免疫療法が推奨されています。
①の室内アレルゲンの除去に関してはカンジダ(水回り、換気扇、エアコン、枕)、蛾(米びつ、衣類(特にウール))は重点的に掃除するべき場所があります。ダニはカーペット、畳もそうですが寝具のケアが大切になります。ダニの減量には殺ダニ剤も有効ですが、ダニを通さないフィルターのついた掃除機で畳一畳あたり30秒程度かける念入りな掃除が必要で、布団も1週間に一度は虫干しして、その後掃除機を両面3分ずつかけるのをお勧めします。
布団カバー、シーツも一週間に一度は水洗いした方がいいです。花粉抗原の回避はなかなか難しいですが、花粉飛散状況のニュースや札幌では道立衛生研究所のHPでの情報を参考にマスク、めがね、および外出から戻ったら衣類についた花粉を室内に持ち込まない工夫が大事です。
②のアレルゲン免疫療法については以前から皮下免疫療法が行われており、これはアレルゲンを皮下注射する方法で痛みや、頻繁な通院およびまれに出る重篤な副反応が問題でした。
舌下免疫療法(SLIT)は痛みがなく、重篤な副反応も少なく、継続が容易であり、スギから始まり、2017年からダニが保険適応となりました。当院では2017年から2022年までに280名の患者さんにダニのSLITを開始しており、北海道、東北では有数の施行数と思われます。ダニのSLITの副反応として多いのは口腔の掻痒感で、約10%の患者さんに認めますが徐々に軽減していきます。
中には口腔底粘膜の腫脹する患者さんもいますが、当院では非常に少数です。SLIT開始当初は以前から処方していた抗ヒスタミン薬等の併用をしますが、半年ほどで併用薬が減量される患者さんが多いです。鼻症状は8割以上の患者さんで改善していますが、体質(特異的IgE等)の変化が気になるところです。
当院ではダニSLIT施行中の患者さんに1年ごとの血清ダニ特異的IgEの測定を勧めていますが、数値のばらつきはあるものの、2年目から低下する患者さんが出始め、3年目で大きく低下する患者さんが多いです。従ってSLITの継続期間としてはまずは3年間を勧めていますが、毎年IgEを測定して結果を患者さんにお話しすることで、抗原除去へのさらなる意識付けやSLIT継続へのモチベーションを上げるのにも役立っているという印象です。
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