ドクターに聞く「MGD(マイボーム腺機能低下症)」について

新川中央眼科
小川 佳一 院長
札幌市北区新川3条7丁目1-64 TEL 011-769-1010

瞼(まぶた)がべたべたしたり、涙が出ている気がするような場合、それは「マイボーム腺機能低下症(MGD)」かもしれません。
今回はその症状と治療法について、新川中央眼科小川佳一院長に語っていただきました。
<取材協力>
小川 佳一 氏
(新川中央眼科 院長)
「メディカルページ平成25年度版」 (平成25年8月30日発行)の冊子に掲載された記事です。

マイボーム腺機能低下症(MGD)という疾患を聞いたことがありますか?

加齢ともに眼科不定愁訴と呼ばれる状態で受診される方が増えてきます。
不定愁訴とは、「頭が重い」、「イライラする」、「疲労感が取れない」、「よく眠れない」などの、何となく体調が悪いという自覚症状を訴えるが、検査をしても原因となる病気が見つからない状態を指します。 患者からの訴え(主訴)は強いが主観的で多岐にわたり、客観的所見に乏しいのが特徴です。眼科では「眼がゴロゴロする」「しょぼしょぼする。」「しぶい」「いずい」「眼が開けにくい」「もやっとする」「涙が出る」などです。はっきりとした所見がなく、原因の決定打が見つからず、「とりあえず目薬」と言って抗生剤や抗炎症剤を処方されて終わることも多いです。(抗生剤は長期間使用すると耐性菌の出現が問題になりますので、今はダラダラと長期間処方することは良くないとなっているのですが…。)

最近、眼科不定愁訴の原因として「ドライアイ」や「結膜弛緩症」の関連が指摘されるようになりました。
結膜弛緩症はその名の通り、結膜が弛緩した状態です。眼表面のうち白目から瞼の裏側にかけて結膜という半透明の膜が覆っています。結膜には適度なゆるみがあり、上下左右など眼が動いたときにつっぱらないようになっています。このゆるみが平均より強い状態を結膜弛緩症といいます。ゆるんだ結膜は下まぶたに沿って存在し、程度が強いときは黒目(角膜)へ乗り上がっていることもあります。

2010年にドライアイ研究会でMGDの定義・診断基準が決まり
ようやくその治療についても研究が初められるようになりました。

症状としては瞼の縁にカッピング(黄色い固まった脂質が帽子のようになっている)、プラッジング(開口部の中に白っぽい固まった脂質)、リッジ(プラッジングの間をつなぐような分泌物)、眼瞼縁(がんけんえん)の血管拡張、粘膜皮膚移行部の移動、眼瞼縁不整があげられます。
眼瞼縁の不整やカッピング、プラッジングは肉眼でも確認することができます。瞼の縁に脂がベットリ付着しますので、自覚症状はまぶたがねばついたり、涙が出ている気がする、となります。
ただ、中高年の患者さんを沢山診察していますと、このような所見があるものの、自覚症状に乏しい患者さんを数多くみかけます。マイボーム腺は高齢になれば、その機能は低下し、多少なりとも加齢性変化の範囲内では…とも考えています。所見が乏しいのに、愁訴(しゅうそ)が強い症例とその逆の症例があるのは何故?そのあたりの解明が待たれます。

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MGDの治療法とは?

いずれにしても自覚症状がある場合は治療が必要なわけですが、最大の治療法は以前も書いた通り、温罨法(おんあんぽう)と眼瞼清拭(がんけんせいしき)です。温罨法は、眼瞼の温度を上昇させて、固形化してしまった脂を溶かすことにより、その分泌を促進させる(ウォーミング)、また、同時に、眼瞼に圧迫をかけることによって、物理的に分泌を促進させる(ウォームコンプレス)方法です。さらに出てきた脂をきれいにふき取り、ばい菌が入って新たな炎症を起こさないようにするのが眼瞼清拭です。

○手順:
1) 手をきれいに洗う。
2) ホットアイマスクや蒸しタオルで眼を10~15分暖める。
3) マイボーム腺脂質の排出を促すべく、人差し指を眼瞼縁に平行にあてて下眼瞼をロールアップするように眼瞼縁までもちあげる。やりすぎてはいけない。
4) 市販の眼瞼清拭綿、あるいは抗菌薬の点眼を含ませた綿棒を用いて眼瞼縁の清拭を行う。無い場合はきれいなティッシュを水道水で濡らし絞ったものでも可能です。

従来、ベビーシャンプーを綿棒につけてマイボーム腺開口部を清拭するという方法が薦められてきましたが、病的なマイボーム腺部位をベビーシャンプーで清拭することはマイボーム腺および涙液層にかえって異常をきたすことがあること、またベビーシャンプーを薄めて綿棒につけるという操作はコンプライアンスが悪いこともあると報告されています。アメリカでは瞼専用のlid scrub solution/padが開発されていますが、日本ではまだ発売されていないようです。
清拭をするタイミングですが、夜間に脂垢が蓄積されるため、朝に行うのがよいとされています。
MGDは慢性疾患であり長期的なケアが必要で、また完治が得られにくいので、根気が必要です。
ただ、高齢の患者様が多く自分で眼瞼清拭をしようとするとかえって角膜(黒目)を傷つけてしまう可能性もあります。細かい作業になりますのでできるだけ若くて手先の器用なご家族の方や介護者の方にしていただくほうが良いと思います。
最近若い女性に目元をしっかりメイクする事がもてはやされていますが、MGDを起こしやすくするという報告もあり、若い方も目元を清潔にすることでパッチリキラキラな目元を作ったほうが健康でよいと思います。
◆寄稿:新川中央眼科 院長 小川佳一氏


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