物が二重に見える!それって何?

新川中央眼科 小川 佳一 院長
札幌市北区新川3条7丁目1-64 TEL 011-769-1010

“ものが二重に見える”-とても気になる症状です。「複視」という、この症状について新川中央眼科の小川佳一院長に解説していただきました。
<取材協力>
小川 佳一 氏
(新川中央眼科 院長)
「メディカルページ札幌版平成29年冬号」(平成29年11月6日発行)の冊子に掲載された記事です。

複視とは

■小川佳一院長

物を見たときに1つのものが上下・左右・斜めなどにずれて2つに見えることがあり、これを複視といいます。
例えば道路の白線が2本に見えたり、2本がクロスして見えたりします。複視には、片目で見ても2つに見える片眼複視と片目で見ると1つなのに両眼で見ると2つに見える両眼複視があります。

片目で見て2つに見える片眼複視

片眼複視は、乱視や白内障、虹彩(茶目)の異常による屈折性複視です。
複視の見え方としては、はっきり2つに見えるというよりぼんやりとかすんで2重にも3重にも見えるという感じです。
メガネ、コンタクト、白内障手術など治療しますが、角膜(黒目)の混濁や変形によるものは治せない場合もあります。

両目で見ると2つに見える両眼複視

■複視イメージ

人は、通常、ものを見るときは両眼で見ています。
正常であれば両眼で見ても1つのものは1つに見えます。これは両眼の目線がその一点に重なり両眼の像が一つに融合して見えるからです。
この時の両眼の画像の微妙なずれを脳で処理をして立体的にものが見えるわけですが、このずれが大きいと画像が融合しきれず2つに見えることになります。
斜視で複視が出ることもありますが、一般的な斜視で複視を自覚することは少なく、その多くは眼を動かす筋肉が麻痺する外眼筋麻痺が原因です。
眼をうごかす筋肉である外眼筋には、動眼神経に支配される上直筋、下直筋、内直筋、下斜筋。外転神経に支配される外直筋。そして滑車神経によって支配される上斜筋の6つの筋肉があります。
これらの筋肉の疾患、これらを支配する脳神経の疾患(これらの神経に対してさらに脳から命令を伝える神経の伝導路の疾患なども含む)で複視は生じます。

外眼筋の疾患

まず外眼筋の疾患としては、筋肉のエネルギーを産生するミトコンドリアの異常に基づく進行性外眼筋麻痺という疾患、甲状腺機能が亢進するバセドウ病、特殊な筋ジストロフィーなどがあります。
また神経難病の1つであり神経筋接合部に異常を示す重症筋無力症も複視をきたします。
これは神経からの刺激を筋肉に伝えるアセチルコリン受容体に抗体による障害が起こり、易疲労性(疲れ易さ)とともに眼筋麻痺や眼瞼下垂などをきたします。

脳中枢神経の疾患

次に眼筋を支配する脳神経の疾患ですが、これは、脳の奥深く脳幹という場所にある神経核から脳の外へ出るまでの部分と脳の外へ出てから眼筋に到達するまでの部分の2つの疾患に大きく分けられます。
前者の脳幹の中で障害される場合は、脳幹にある他の脳神経の障害(例えば顔面神経の障害による顔面神経麻痺や三叉神経障害による顔面の感覚障害など)や脳から手や足に行く運動神経や感覚神経の障害による手や足の麻痺や感覚障害などを伴うことがあります。
脳血管障害、脳腫瘍、脳炎などの疾患では重篤な場合、意識障害を呈することもあります。
また神経難病の代表の1つである多発性硬化症では、眼球運動障害に加えて、小脳失調や視力障害など多彩な神経症状を呈し、空間的な多発性が疾患の特徴です。 後者の脳幹を出てから頭蓋底を走って上眼窩裂(じょうがんかれつ)という頭蓋骨からの出口を通って眼筋にいたるまでの神経が障害される場合は、数多くの疾患が知られています。
結核性、真菌性あるいはガンによる髄膜炎、脳動脈瘤、サルコイドーシスという膠原病に類似した疾患、糖尿病、ギランバレー症候群という末梢神経の疾患などです。このうち脳動脈瘤によるものとしては内頚動脈と後交通動脈の分岐部に生じたものによる動眼神経麻痺が知られており、この場合は、内眼筋麻痺といい、瞳孔の異常の方が先にでることが多いので、複視は動脈瘤の破裂すなわちクモ膜下出血をきたす前の危険信号といわれています。
また糖尿病で起こる場合は、糖尿病に合併した細動脈硬化という小さな動脈の硬化による血流障害で生ずるため動脈瘤の場合とは逆に、瞳孔の異常よりも複視や眼瞼下垂など外眼筋麻痺の方が、症状が出やすいといわれています。

いずれにしても、複視というのは他人から見たら、ほとんどどこが悪いのか目立たない症状です。しかし、本人にとっては、結構つらくて気持ちの悪い症状であり、かつ重大なものも含んだ数多く疾患が背景として存在することがあります。
要注意な神経症状と認識し、自覚症状があれば、速やかに眼科と脳外科を受診することをお勧めします。

◆寄稿:新川中央眼科 院長 小川佳一氏


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